
『
もういいですよ、と呼びかける声が床から這い上がってきた。包帯で顔半分を覆い、通路に座り込んでいる電深長の中尉だった。そんなに長く続く道行きじゃない。ここでおとなしく迎えを待ちましょうや。軍医長がいくら頑張ったって、もう……
無駄だ。先の言葉を呑み込んだ電深長を、時岡は怒鳴りつけた。何をバカなことを言っとるんです。もういいかどうかは医者が決めることです。治療が必要な人間がこれだけいるのに、途中でやめられますか。
そんな顔してないで笑ってなさい。歌ってなさい。生きてるってことを無駄にしちゃいけません、最後の一秒まで。爆発の激震より深く、重く、艦内の空気を震わせる歌声を振り仰いで、時岡は煤で汚れた丸眼鏡を外した。レンズを袖口で拭いてかけ直したが、じわりと滲んだ視界は改善されなかった。この大事な時に。もう一度眼鏡を外し、目頭をごしごしこすってからかけ直すと、ドシンと重いものが落下する音が頭上に弾けた。
医務室前の通路の天井が裂け、亀裂の向こうに覗く青空がはっきり見えた。潜水艦の艦内にいて青空が見られるとは。時岡は唐突に現れた空の色に目を瞠り、美しい!と内心に叫んだ。
そう、こんなこともあるから人生は捨てたものじゃない。人の身体を治し、長らえさせる手伝いをする自分の仕事にも意義がある。この感動を心に伝え、ひとつでも多くの充足感を味わうためには、肉体の存在が不可欠なのだから――。
』(『終戦のローレライ/福井晴敏 著』4巻、P388~389)
……悲しいなあ……。
真面目になっててすいません……
ホントは、戦争の話って好きじゃないんです。でも聖闘士聖矢よりずっと前、『はだしのゲン』っていうアニメ見て以来、戦後何十年も経ってどれ程凄惨だったかの匂いが薄れて久しい世代だからこそ、戦争の話って読まなければいけないような、強迫観念のようなものがあって……
もっと正確に言うと、『はだしのゲン』で、原爆投下直後、爆風で目玉の飛び出す女の子の絵を見てからなんですけれども 当時10歳やそこらだったと思いますけど、それを見て、本当にショックを受けて、画面の前を離れてしまった……トラウマで
……だから何だって言われると何も出来てなくて、見れば見るほどに打ちのめされたりするんですけど……
でも戦争っていたたまれない。誰だって死にたくは無いのに、無為に人が死ぬっていたたまれない。
この温度に浸かってしまうと、しばらくどーんと落ち込んじゃうんですよね……
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